中古車に付き物なのが、故障です。購入して乗ってみたら急にブレーキの調子が悪くなり全く効かなくなった、故障のせいでエンジンがかからなくなったetc…こういったトラブルは中古車である以上、常に発生する可能性を秘めています。
通常は、販売店側で納車前にしっかりと整備をして、納車後に万が一問題が生じた場合は一定期間は保証をしてくれます。しかし、中には「現状渡しで保証も無い」状態で販売されている車も有ります。
では、保証が無い車を購入して不具合が生じたときは、一切救済されないのでしょうか?また、個人の方が業者に車を売却した場合でも、業者側から不具合が見つかったと後々追求される事も有るのでしょうか?
以下では、これらの疑問を売り主の瑕疵担保責任の観点から見ていきましょう。
瑕疵担保責任とは?追及出来る期間は?
瑕疵担保責任とは、民法570条に規定されている「売り主の責任」の事を指しています。
(売主の瑕疵担保責任)
第五百七十条 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。
条文を読むと、隠れた瑕疵があった場合の話という事は分かりますが、それ以外は民法の570条は「566条を準用する」としているだけなので、これだけ見ても内容が分かりません。そこで、566条を見てみると以下の様になっています。
(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
第五百六十六条 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2 (省略)
3 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。
これらを要約すると、「買主が売買の目的物に瑕疵が有る事を知らなかった場合は、1年以内であれば契約の解除が出来る。また、契約の解除が出来ない場合は損害賠償請求をする事が出来る」となります。
隠れたる瑕疵(ぱっと分からない様な欠陥)が有った場合、売り主は過失の有無に関わらず買い主に対して責任を負う事になる、という事ですね。
瑕疵担保責任を考える際、民法415条の定める債務不履行との違いがよく分からないという方がいます。
ざくっと説明すると、債務不履行は債務者が原因(故意・過失)で契約に沿った債務の履行をする事が出来ない、つまり約束が守れなかった場合に問題となります。
例えば、商品の支払を10日後という条件で契約を締結したにも関わらず、支払が遅れて20日後になった様なケース。これは、債務不履行の中でも履行遅滞(期日に間に合わなかった)に該当します。
一方の瑕疵担保責任は、契約をする前から隠れた瑕疵が有り、その瑕疵のせいで契約の内容が実現出来ない(過失は問わない)場合に問題となります。
瑕疵担保責任が問題となる事例紹介
以下では、車の売買で瑕疵担保責任が問題となるトラブルを、いくつか事例を元に見ていきましょう。
現状引き渡しで売却した際の瑕疵担保責任
業者から中古車を購入したものの、納車後10日程でエンジンが故障し動かなくなった。業者に連絡したが、「現状渡しなので諦めて下さい」と言われた。
販売店から中古車を現状渡しで購入した場合、基本的に保証は無いので後々不具合が生じたとしても販売店は応じてくれないでしょう。
しかし、上で見た様に売り主には瑕疵担保責任が有ります。保証を付けなかったからと言って、後々一切の不具合対応をしなくてもいいという訳で有りません。
隠れた瑕疵が有るのであれば、販売店は責任を負う必要が有ります。従って、保証が付いていなくても販売店に対して返品や損害賠償(修理)を求める事は可能、と考えられます。
但し、売り主の担保責任を追及出来るのは、買い主が不具合を知らなかった場合(善意)に限られます。予め不具合について説明が有った場合(悪意)は、瑕疵担保責任を追及する事は出来ません。
参考:個人売買では通常は、現状渡しで保証も有りません。また、取引時に使う「現状引き渡し」は相手が個人か業者かで、意味が異なるので注意が必要です。(参考:中古車の”現状引き渡し”の意味とは?)
冠水車だった場合の瑕疵担保責任
中古車を購入した後で、どうも車の調子が悪いので整備工場に持って行くと、「冠水車ですよ」と言われた。
中古車を購入すると冠水車(水に浸かって事の有る車)だった、という事はたまに有ります。
冠水車は明確な定義がなく、ルール上も修復歴無しとしても問題有りません。従って、仮に冠水車だったとしてもその記載はされずに売られているのが殆どです。しかし、不具合が生じる事が多いので殆どの場合、販売店は「現状渡し」扱いで販売しています。
不具合を一切説明されずに、冠水が原因で動かなくなった場合はまだしも、「不具合については一通り説明が有ったものの、冠水車という事は聞いていなかったと」いう場合は、売り主の瑕疵担保責任を追求するのは難しいかもしれませんね。
しかし、不具合は不具合です。きちんと販売店に相談・交渉はする様にしましょうね。
再査定による責任の所在
車の買取査定をしてもらい、査定額に納得したので売買契約を締結。しかし、契約後に買取店から「細かくチェックしたところ、事故歴が有る事が分かったので、買取額は○万円減額します。」と言われた。
修復歴が有ると正直に申告した上で査定に出し、金額で合意したので車を売却。3ヶ月くらい経った後で業者から連絡が有り、「査定時に考えていた以上に車のダメージが大きいので損をした。少し損を負担して欲しい」と言われた。
瑕疵担保責任をそのまま解釈すると、これらの2つ事例の場合、買取業者は客に損害賠償請求や契約の解除を求める事が出来そうですよね。
しかし、業者は査定のプロです。最初からちゃんと注意を払って査定をしていれば、修復歴は発見出来る筈です。
また、予め修復歴が有ると申告していた様な場合は、もはや業者側の過失以外の何者でも有りません。従って、業者は瑕疵担保責任を売り主に求める事は出来ません。
この様に、契約後に再査定(二重査定とも言います)をして査定額を減額してくる様な業者とは取引をしない方が良いですね。また、仮に減額や損失負担を求められても応じる必要は無いので、毅然とした態度で対応するか消費者生活センターに相談する様にしましょう。