2016年4月20日、三菱自動車の燃費不正が発覚しました。過去、2000年と2004年に大規模な「リコール隠し」が発覚したのは記憶に新しいですよね。あれから約10年、三菱自動車は企業体質の改善に尽力しているかに思われていましたが、再び悪事に手を染めてしまいました。
不正内容
三菱自動車が行ったのは「燃費不正」です。カタログの燃費数値を実際の燃費数値より「5~10%」も良く表示していました。
不正が発覚したキッカケは、日産が新たな技術開発の為にデイズの燃費性能を試験した際に、三菱自動車が公表しているデータとの違いに気付き、三菱自動車側に説明を求めたのがきっかけです。
2016年4月21日現在、燃費不正が判明している車種は以下の4つです。
下記表の「カタログの燃費」は、不正によって偽装されていた燃費です。また「実際の燃費(推定)」は、本来カタログ値として載せるべき燃費です(不正表示されていた燃費の90%として推定計算した結果)。
不正が行われた車種 | カタログの燃費 | 実際の燃費(推定) |
---|---|---|
eKワゴン | 25~30.4km/L | 22.5~27.4km/L |
eKスペース | 22.6~26.2km/L | 20.3~23.4km/L |
デイズ | 25~30.4km/L | 22.5~27.4km/L |
デイズルークス | 22.6~26.2km/L | 20.3~23.4km/L |
デイズとデイズルークスは三菱自動車が製造し、日産が販売している車種です。OEM車種。
現在まで、三菱自動車はeK関連を約15万7千台販売し、デイズ関連を日産へ約46万8千台提供しています。合計約62万5千台に今回の燃費不正の影響が及ぶ事になります。なお、該当車種に関しては既に販売停止済みです。
どのような不正をしたのか?⇒データ改ざんによる不正
自動車のカタログに表示される燃費は、審査機関である「交通安全環境研究所」が測定し、それを国土交通省等が審査し認定した数値です。
燃費の測定は、実際に公道を走行するのではなく、シャシダイナモメータという試験場内の測定装置に車を固定しタイヤを回転させて行われます。この方法では、公道を走った場合に空気や路面から受ける抵抗は反映されません。そのため、メーカー側が提出する抵抗値のデータをインプットして燃費を測定します。
三菱自動車の説明によると、今回の燃費不正は抵抗値のデータのうちタイヤと路面間に発生するタイヤ抵抗値を改ざんする事で行われたようです。意図的に抵抗値の低いデータを提出し、実際の燃費より良い数値が測定され、それをカタログ値に記載して販売していた事になります。
データを改ざんした三菱自動車が悪いのは当然ですが、提出されたデータを鵜呑みにして測定・審査をしている国・機関にも問題が有るでしょう。
不正に至った経緯
三菱自動車の説明によると、燃費不正は意図的であったとするものの、不正を行った理由については調査中としています。
報道では「第一性能実験部」が不正に関与していたそうですが、本当にそのレベルだけの話なのか、はたまた組織ぐるみなのかどうなんでしょうね。記者会見では上層部は関係ないような感じでしたが。
ただ不正を行った理由が、以下のような点に有った事は簡単に予想が付きます。
- 軽自動車(特に低燃費の軽自動車)の人気が高い
- 軽自動車のシェアを高めたかった
「新車販売台数ランキング【車種別-2015年版】」の記事で紹介しているように、2015年の新車販売台数の上位10車種のうち軽自動車が6車種も占めています。2014年に至っては7車種が上位を占めている状況です。それだけ近年は軽自動車に人気が集まっています。
また、軽自動車の人気車種の多くは低燃費です。人気車種ではなくても、燃費が30km/Lを超える軽自動車は数多く販売されています(参考:燃費の良い軽自動車ランキング【2016年編】)。
こうした状況の中で販売シェアを高めるには、低燃費の車を開発する必要が有ります。
では、三菱自動車の軽自動車のシェアはどれくらいだったかというと、2014年度・2015年度ともに3.4%でした。ダイハツとスズキがそれぞれ30%のシェアを占めており、共に30km/Lを超える燃費の車を数多く販売しています(参考:軽自動車販売台数の推移と2014年のメーカー別シェア)。
こうした現状が有り、また燃費性能の技術でも遅れをとっている現状を打破するために、燃費不正に手を染めてしまったのでしょう。担当部署レベルで不正が行われたのであれば、担当者にかなりのプレッシャーがかけられていたんでしょうね。
不正に対する補償は?
燃費不正によってエコカー減税に影響を及ぼす可能性が有ります。今回不正が有った4車種はエコカー減税の対象となっています。しかし、燃費性能が下がれば、エコカー減税額も変わってくる可能性が有ります。
三菱自動車の説明によれば「不正によって減少した税収が有れば補填する」としていますが、そもそもエコカー減税の原資は国民からの税金のはずです。4車種のオーナーのみならず納税者全員に迷惑をかけているのですから、返納は当然の事でしょう。
なお、4車種のオーナーに対する補償については不明です。オーナーの人は三菱自動車の今後の対応に注視する必要が有ります。
今後、三菱自動車はどうなる?
「三菱自動車の販売台数の低迷はなぜ起こったのか?」の記事に書いているように、ここ十数年で三菱自動車の販売台数は激減していました。その理由は冒頭で紹介したように「リコール隠し」を行ったためです。
それでも、三菱グループの支援でなんとか経営を回復させている段階でした。しかし、今回の燃費不正は致命的といっても過言では有りません。
燃費不正が発表される前の三菱自動車の株価は864円でした。不正発表後から続落し、4月21日の終値は583円となっています。2日間で281円も値を下げた事になります。
また、三菱自動車の売れ筋車種であった「eK」に不正が発覚した事から、そのダメージは図りしれません。今後株主等の利害関係者などから集団訴訟が行われる可能性もあり、企業としての存続危機に陥る可能性も有ります。
また4月20日、21日と国土交通省が三菱自動車の名古屋製作所・技術センターに立ち入り検査しており、他に不正が無いかの調査も行われています。
今後三菱自動車がどうなってしまうのか、利害関係の有る人は特に注目しておいた方が良いでしょう。
■関連記事
三菱自動車の販売台数の低迷はなぜ起こったのか?
【追記情報】
以下では新たに発覚した問題について簡単にまとめていきたいと思います。
4車種以外の車でも違法な方法で試験をしていたことが発覚
2016年4月21日
今回燃費不正が発覚した4車種だけでなく、「ミラージュ」「デリカD:5」「アウトランダーPHEV」を除く“全ての車種”で法律で定められる方法とは違う方法で燃費を計算していたそうです。
このような不正な燃費計算は2002年頃から行われていたそうです。ちょっと空いた口が塞がりませんね。