1990年代からビッグスリーが破綻する2009年頃まで、米国企業は「ライト・トラック(小型トラック)」を開発・販売の主軸にしてきました。ライト・トラックには、ピックアップ・トラックやミニバン、SUVなどの車種が含まれます。
この経営方針が、後のビッグスリーの破綻への序章となる事を、誰も想像出来なかったのでしょう。
なぜ米国企業はこのような経営方針を貫いて来たのでしょうか?
ライト・トラックの利益率の高さ
ライト・トラックの利益率の高さが、小型自動車を生産して来なかった原因の一つと考えられます。
「販売価格の高さ」に加え、各車種に共通のプラットフォームを利用して「開発コストを低く抑える事」が出来るので、必然的に利益率は高くなります。
プラットフォームとは、車のフレーム・エンジン・サスペンションなど車のボトムの基本構造を指します。このプラットフォームにドアや座席等を取り付けて、車は生産されます。
プラットフォームは車の性能を左右する大事な要素なので、開発・設計に時間と費用を掛けて作り込んでいきます。
プラットフォームを様々な車種に利用する生産方法は、ライト・トラックに限らず、小型自動車にも採用されています。ただ、小型自動車の販売価格はライト・トラックより安いので、利益率が悪くなってしまいます。
そのため、米国企業は小型自動車の生産に本腰を入れず、ライト・トラックを主軸にしてきたのでしょう。
また、米国の燃費規制もこの経営方針の背中を押す事になります。
燃費規制の緩さ
ライト・トラックは乗用車と比較して燃費規制が緩かったのも、小型自動車を生産してこなかったもう一つの原因です。
アメリカでは、1973年の石油ショックを機に「CAFE規制(燃費規制)」を導入します。しかし、この規制は乗用車には厳しく、ライト・トラックには緩い内容でした。
規制に適合する為にエンジン性能や車重の軽量化などの改良をするには、さきほど紹介したプラットフォームを再開発しなくてはならず、コストが掛かかってしまいます。コストの掛かる小型自動車よりも、コストの掛からないライト・トラックを生産・販売する経営方針に舵を切るのは当然の事かもしれません。
米国企業は目先の利益を追いかけ、低燃費の小型自動車の開発・生産に着手しなかったわけです。原油価格が安い時は販売は好調でしたが、原油価格が高騰すると燃費の悪いライト・トラックの顧客離れが進みます。主軸の車種の販売台数低下はかなり痛手になったでしょう。
CAFE規制は企業平均燃費規制を意味します。企業平均燃費は、企業の生産する車種の燃費を生産台数で加重平均して算出されます。
■具体例
20km/Lを15万台、10km/Lを10万台生産する企業の企業平均燃費は、(20km/L×15万台+10km/L×10万台)÷(15万台+10万台)=16km/Lとなります。
燃費の良い車種をたくさん生産する事で企業平均燃費は上がり、燃費の悪い車種をたくさん生産すると企業平均燃費は下がります。
当時は、乗用車とライト・トラックは別々の基準が設定されていましたが、今現在は両車を合わせた企業平均燃費で計算し、基準もより厳しい内容に変わっています。
小型自動車の開発へ
金融危機の後、米国企業は市場の低燃費車両への需要と新たな燃費規制に対応すべく、小型自動車の開発に着手します。
しかし、ライト・トラックに力を注いできたため、小型自動車の開発のノウハウが有りません。そこで、資本提携をして他社の力を借りる事になります。
そして、2010年に電気自動車を販売します。ただ残念な事に、電気自動車の燃料電池に不具合が発生してしまいます。
以前の経営方針によって出来てしまった「開発の空白期間」は、すぐには取り戻せないようです。
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