車検証を見ると、「所有者名」「使用者名」が記載されています。
本来であれば「所有者」も「使用者」も”自分”がなるのが普通ですが、そうではない場合もあります。
なぜでしょうか?また、所有者と使用者の違いはなんでしょうか?
所有者と使用者の違い
車検証上の「所有者」と「使用者」は読んで字のごとくですが、以下の様な意味が有ります。
- 所有者:車の所有権を有している人(※)
- 使用者:車をメインで使用する人(使用する権利の有る人)
※:あくまでも権利の話なので、車の免許が無い方や法人も所有者になる事が出来ます。
車を購入したら、自分のものを自分が使うので「所有者」も「使用者」も購入者の名前になるのでは?と思うかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。
例えば、ディーラーと現金取引をした場合は、購入者本人が「所有者」となり、「使用者」欄は空欄(※)となります。一方で、信販クレジットやローンを組んで購入した場合は、通常は所有者は「ディーラー」となり使用者が「購入者」となります。
※:空欄の場合、所有者と使用者が同じという事を意味しています。
これらは「所有権が誰に有るか」によって異なります。現金一括支払をした場合の様に車の支払が終わっている方の所有権は購入者に有りますが、ローンを組んで毎月の支払がまだ終わっていない様な場合の所有権はディーラー(若しくはクレジット会社)に有ります。
なぜ車を購入した事自体に変わりは無いのに、上記の様に所有権に違いが生じるかという事は、「所有権とは何か?」を考えると分かります。
所有権とは?
所有権は民法206条で、以下の様に規定されています。
第二百六条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
つまり、所有権が有る人はその車を「自由に使ったり処分したりする事が出来る」のです。
購入者がローン返済中の場合、ディーラー側はいつ支払能力が無くなり代金が回収出来なくなるか分かりません。そこで、支払が終わるまでは所有権をディーラーの元に置いておく事で、いつでも車の差押えをする事が出来る様にしているのです。代金の返済がされなくても、車を差し押さえて売却すれば補填が出来ますからね。
なお、条文にも有る様に所有権は目的物を自由に「処分」出来る権利です。所有権が購入者に無い間は、購入者はその車を自由に売る事は出来ません(※)。ローンを完済して初めて所有権が購入者に移転され、自由に処分をする事が出来る様になります。
※:所有者の同意が有れば売却は可能です。
購入者が未成年の場合
上記の様に、クレジットやローンで車を購入したとき以外でも所有者と購入者が異なる事が有ります。例えば、購入者が未成年者の場合です。
未成年者は、民法第5条で定められている様に「親権者の同意が無ければ」車を購入する事は出来ません(※)。
※:20歳未満でも結婚していれば同意等は不要です。
(未成年者の法律行為)
第五条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
また、同意が有ったとしても手続きが面倒(※)なので、通常は未成年者を所有者として登録する事はしません。
※:「親権者が確認できる戸籍謄本又は戸籍の全部事項証明書」、「親権者のうち1名の印鑑証明書」、「同意書」が必要です。
ではどうするか?というと、成人になるまでの間は所有者を「親」か「ディーラー」にしておいて、成人になった時点で移転登録により所有者として登録するのです。
他にも、なかなか無いとは思いますが、車を現金一括で買ったものの、印鑑証明等の必要書類の提出を怠った為に所有者登録が出来ず、やむを得ず一時的にディーラーを所有者として登録する事も有ります。
コラム:駐車違反時の所有者責任
通常は、交通違反をすると車を運転していた方が反則金を納付する事になりますが、「車検証の所有者」が責任を負わないといけない場合も有ります。
放置駐車違反をすると、違反に関する内容が記載された黄色い紙が車に貼られます。通常であれば、車を運転していた方がこの紙を持って警察に出頭し反則金を支払う(使用者責任)のですが、出頭しない場合は車検証上の所有者に対して「放置違反金」が科されるのです(所有者責任)。
車検証上の所有者と車を使用している方が同じであれば問題無いですが、車が会社名義の様な場合には、出頭しないと会社に放置違反金の書類が届いて違反がバレる事になるので注意が必要ですね。