ガソリン価格の値下がりが止まりませんね。2016年に入ってから、一部地域のガソリンスタンドではレギュラーガソリンの小売価格が100円を割っています。
ガソスタ経営者が安売り競争に悲鳴を上げている!なんて記事も出ていましたね。なぜガソリンの値段が下がっているのか?別記事で「主に四つの要因が有る」と紹介しました。
ガソリン価格が安くなっている理由【2015年~2016年の価格推移】
今回はその要因の中でも取り分け影響の大きい「産油国の原油生産量調整が上手くいっていない」という部分に付いて、中東だけでなくアメリカのシェールオイルとの関連も踏まえながら詳しく見ていきたいと思います。
原油価格を牛耳っているのはOPECだが・・・
OPEC(Organization of the Petroleum Exporting Countries)とは、石油輸出機構の略称であり、石油輸出国の利益を守る事を目的として作られた組織です。設立は1960年。
OPECは、それまで国際石油資本が牛耳っていた世界の石油価格決定権を奪い、今では生産調整でほぼ自由に原油価格を決められる存在になっています。日本は、輸入の8割程度を中東産に依存しているため、OPEC加盟国の問題でオイルショックが引き起こされた事も有りました。
加盟国は2016年現在13カ国(*1)で、6月と12月に全加盟国が参加する総会が行われ、今後の生産調整等々の対応が話し合われます。
*1 ○イラク ○イラン ○クウェート ○サウジアラビア ○ベネズエラ ○カタール ○リビア ○アラブ首長国連邦(UAE) ○アルジェリア ○ナイジェリア ○アンゴラ ○エクアドル ○インドネシア
しかし、ここへ来てOPEC加盟国間の連携が上手く行かず、原油価格が暴落しています。以下は原油価格の国際的指標となるWTIの原油先物価格の推移ですが、2014年頃から2016年にかけてどんどんと下がっている事が分かります。
○単位:ドル/1バレル ○期間:3年 ○チャート:月足
(出展:SBI証券-マーケット(原油WTI原油先物)
ではなぜ、OPECは原油価格の上昇の反転が見込める【減産】を見送ってきたのか?その大きな理由が「米国のシェールオイル」の台頭です。
米国のシェール革命について
200年台半ば以降に起こった米国のシェール革命により、アメリカの原油生産量は激増しました。米エネルギー情報局によれば、15年度の米国原油日産量は約940万バレルにまで成長しており、2008年度の2倍近くまで増えているそうです。
また、16年度の1日あたり生産量も「約850万バレル」と予測されており、以前高い水準のままです。(ちなみに、今では米国の原油生産の半分近くがシェールオイルとなっているそうです。)
現在アメリカの原油生産量は、OPEC内でも最大の生産量を誇るサウジアラビアや、OPEC非加盟国では最大の生産量を誇るロシアと肩を並べるほどになりました。
この影響等も有り、かつては世界の市場占有率で5割を超えていたOPECの市場占有率は約4割程度まで落ち込んでいます。
OPECが減産してこなかった理由
原油価格が値下がりしているにも関わらず、OPECが減産を見送ったのは、米国のシェールオイルへの対抗意識が有ると言われています。
というのも、米国のシェールオイル業者の採算ラインは1バレル50ドル前後(*1)と言われており、原油価格の下落が続けば、米国も生産量を増産・維持出来ないと判断していたからです。
*1 正確には不明。1バレル40ドルを下回ると大半の業者は赤字になるそうです。
要は、赤字が続けば米国が諦めてくれるだろう。原油市場で幅を効かせ始めた米国を抑えこみ、再び、OPECが原油市場の覇権を確固たる物に出来るだろうという読みが、OPECの中でも発言力の強いサウジアラビアには有りました。
2016年以降の原油価格動向について
OPECの読みとは裏腹に、米国の原油生産量は高い水準のままで来ています。
また、OPEC内での生産調整の足並みが揃わない事から需給改善の見込みが立たず、ついには2016年に入るとWTI原油先物価格は「1バレル30ドル割れ」を起こすようになりました。
以下、今後の原油価格の動向に影響を与える事項を時系列で紹介していきます。
2016年1月-イランへの経済制裁解除される
イランの核開発に対する経済制裁として、欧米諸国はイランの原油輸出に制限をかけたり、原油売上金の一部の支払凍結などを行っていましたが、これが解除される事となりました。
制裁が完全に解除されれば、日量100万バレル程度の原油が市場に供給される事になると予想されています。既に供給過多となっている原油が、これにより更にダブつくのではないか?という懸念も原油価格の値下がりに寄与した理由です。
2016年2月 – 4産油国が増産凍結合意
2月16日にロシアとOPEC加盟3カ国(サウジアラビア・カタール・ベネズエラ)、計4カ国の間で原油生産量を1月の水準に据え置く(増産はしない)という合意がなされました。
しかし、他の産油国が同様の判断を下すのか?については未だ不明。18日にはサウジのジュベイル外相が「減産する用意はない」とも語っており、今回の決定が需給ギャップを埋めるキッカケになるのかは不透明です。
また、経済制裁が解除されたイランは増産凍結合意を支持したものの、「原油価格の下落は対イラン制裁中に増産を進めた産油国に原因がある。我々は失った市場占有率を取り戻す必要が有る」として、原油増産を示唆しています。
ちなみにイランとサウジは断交しています。
今後の原油市場は【中東産油国】が足並みを揃える事が出来るかにかかっているようです。
2016年4月 – 原油増産凍結先送りorz
2016年4月17日、サウジやロシアなど主要産油国を含む18カ国がカタールの首都ドーハで会合を行いました。
今回の会合も原油生産量を2016年1月の水準に据え置くことで合意できるか?という部分が焦点になっていましたが、やはりイランが経済制裁前の市場シェア率まで早急に回復したい!という意向を持ちだして会合を欠席。
OPEC盟主のサウジアラビアが、このイランの行動に態度を硬化させた事により、今回の会合でも増産凍結の協議は物別れに終わりました。この決定を受けてWTI原油先物価格は以下のように一時1バレル=37ドル台まで下落しています。
(出展:SBI証券-原油(WTI原油先物))
2016年4月21日現在では1バレル=44ドル台まで上昇。